ステップ STEP  −HEART WIND STORY 
 


「だーっ!!うっさい。ほんとだよ、本当だってばー」
 こいつ、いつまでたっても人をバカにしやがって。今に見ていろ〜。
「大体、お前みたいなヤツに、今超人気の新人アイドル杉本ま ゆが好意を寄せるはずがない」
「まだ判ってくれないのかよ。彼女は僕の前で告白してくれた んだぜ」 
「いつー?」
「小学生のときー」 
「−−−−−−−」
 辺りに静けさが訪れた。
 そして次に−−−−−−
「あっははははは・・・」
「は、はははは・・・・」
 笑いの渦が巻き起こる。
「そーんな事だろうと思っていたよ、どうせ」
「けどー」
「そんな昔のことなんて彼女、絶対覚えてねーぜ」
「仮に覚えてたとしても今はどうか・・」
「そうそう、日本狭しと言えどもお前の言うその彼女が、あの 杉本まゆだとは限らんし」
「だいたい同姓同名、同出身地、同年齢のヤツがいても不思議 じゃない」
「お前の夢物語なんかに付き合ってる暇はねーよ」
「忙しいんだ」
「じゃあーな」
 そう言うが早くヤツらはさっさと出て行った。
 言いたいことだけ全部言って行きやがって。
 うん?
 くっつそー、おまけにここの茶店代も払わずにぃー!
 何てこった。。。。


 俺の名は幾田良。
 さっき話していた杉本まゆちゃんは今や超売れっ子の人気アイドル。
 そして俺の・・・・・・
 うーむ、なんせ彼女に告白されたのは小学四年の時。
 そして 今現在、俺は高二。
 時が開きすぎた。
 だいたい小学生の時に愛だの何だのって言われたって判る訳 がない。
 今頃になって気がついたんだ。そう、半年前に彼女がデビューし、ブラウン管にその笑顔が 映った時に。。。


 俺は家に帰ると、もやもやする気持ちを抑えつつすぐベット へともぐり込んだ。
 別に眠たかったわけではないがどうも全てが気に入らなくやけっぱちになっていたんだ。
 数時間が経った。

 ジリリーン!
 突然部屋の電話が鳴る。
 その音に慌てて俺は飛び起きた。
 つい、うとうとと眠ってし  まっていたせいか、いくらか頭がぼーっとしている。
 やっとの事で受話器を取る。
「ふぁーい。幾田ですけど・・・」
「あ、あの、もしもし・・・・。幾田・・良くん・・・」
「はぁ〜・・・」
 電話の向こうの相手はどうやら女の子らしい。
 と時計を見るとそれは夜中の十一時を指している。
 因みに、俺には電話をかけてくれるような女の子の知り合いは全くいな い。しかもこんな夜遅くに・・・。
「もしもし、幾田良くんですね」
「はい、そうですけど」
何故だか判らないけれど胸の鼓動が速くなっていく。
「もしもし、私、杉本まゆと申します」
「はぁー?すぎもと、まゆ・・・・・
 すぎも・・・、ええーっ!杉本まゆ、えーっ!!
 杉本まゆってあの−−−−−!!」
「はい、幾田くんから数日前届いた手紙、読ませていただきました。私があの小学校四年の時の・・・」
 そうだった、忘れてた、数日前に手紙書いたんだっけ。
 俺、ファンクラブ宛に、自分の住所と名前も書いて・・・
「会って欲しいの、今すぐ」
「えっ!」
「今、あなたの家の近くの西原公園に来ているわ。すぐに来てね、じゃあ」
 プツン−−−−−
「あっ、もしもし、もしも・・」
 そこで電話は切れてしまった。
 俺はまだ、夢か現実か判らぬまま、それでもすぐにまゆの待つ公園へと家を後にした。


「まゆちゃん!」
 彼女はその公園にある一つのベンチに一人で座っていた。
「幾田くん!?」
 そう呼ぶと彼女はすっくと立ち上がり、急に俺の方へと走ってきた。
「お、おい、どうしたんだ。あ!あ〜!!」
 そしていきなり抱きついてきたのである。
 俺、何やってんだ!今を代表するアイドルと何を!
 もう何が何だかさっぱり判らなくなってしまっていた。
 しかし、そうしているうちに俺は腕に落ちてくる冷たいものがあるのに気付いた。
 そっと、徐々に、俺は彼女の体を自分のそれから離していった。
「どうしたんだ、何かあったのか?」
 その涙に濡れた顔はあのテレビでいつも見る笑顔とは似ても似つかなかった。
「実は・・・」
 まゆは話し始めた。

 それはもう歌手をやめたいという事であった。
 まゆの父親はちょうど彼女が中学一年の時に亡くなった。
 そして母もその後の無理がたたって倒れ、今入院しているということだった。
 中学出の女の子、しかも父もいなく母も病気入院中という状況ではどこも使ってくれるようなところはなかった。
 その間、どれだけ辛くて悲しい日々を送ってきたことだろう。
 しかし、ちょっとしたきっかけからある日、まゆは運よく芸能界へ−−−−−−
 小さい頃からの夢を叶えただけでなく、そのか細い手で莫大 なお金を稼ぐようにさえなった。 
 全てが順調に進んでいるように見えた。
 が、しかし・・・


「もうあれから七年もたつね」       
「七年、か・・」
 いつも元気な笑顔でいたまゆだが、いつしか多くの不安と苦痛が彼女を少しづつ、少しづつ、変えていった。
 もはや気を許して話せる者は誰もいなかった。
 とても自分だけが惨めなような気になるのだ。他の幸せいっぱいの人々の顔を見ていると。
 その時ふと、まゆの心の片隅に七年前の想いが蘇った。
 生々しく。そう、幸せだった日々が・・・
 そんな頃を強烈に想い出させる人、それが幾田良だった。
<幾田君くん、幾田くんに会いたい、もう一度会って−−−−−>

「あの時から俺はニブかったんだよな。あれから後、すぐに俺は引っ越しちまったっけ。
 そしてそれからずっと、そうもう半年前に君がデビューするまで判らないでいた。
 けど、なぜか気付いたんだ、急にその時に。俺の本当の気持ちに」
「幾田くん」
「まゆ・・・」
 おっと、ちょっと雰囲気が−−−−
 っと、こんな場合じゃなかった。
 俺はぐっと彼女の手を握った。
「それで、どうして歌手をやめるって?」
 不思議でしょうがなかった。何とかお金も手に入り母の面倒も見れる様になったというのに。
「だって、いくらお金があったって。そのお金で病院でお母さんの面倒を見ていてもらえったって。
 今のままのこの生活じゃ、私、私自身の手で自分の母親の手を触れる事さえ出来ないのよ」
「それはー、忙しいから・・・」
「判ってない!!これじゃ元のほうがいいわ、私は母の面倒をずっと見たいのよ。私の、自分のこの手で−−−−−」
 彼女は泣きじゃくった。
「君のお母さんはどこの病院にいる?どこにいるんだ!?」
 俺は気迫を込めた声で叫んだ。
 まゆはびっくりしてぼそっと言った。
「西岡病院・・・」
 そして俺はすぐさま行動を起こした。
「な、何するの!?」
 無理矢理まゆの手をひくと、家のガレージへと行き愛用のバイクの後ろに乗せスタートした。
「しっかりつかまってろ!!」
 チチチッ
 俺のデジタル腕時計にゼロの数字が並んだ。
 ブロロン・・・・
 静けさにバイクの音だけが低く響く。


 キィィ−−−ッ!!
「さあ、来るんだ」
「何をするのよ、離して」
 そう言いつつも引っ張られ、ついて行くまゆ。
 ガチャッ!
 二人はある一室に入った。
 暗闇に一人目を開けたまま、じっとしている人がいた。
「お母さん!!」
 それがまゆの母、成美であった。
「まゆ、どうしてここへ?それもこんなに遅く」
「お母さん」
 杉本成美はちらと俺の方を見た。
 あわてて俺は言った。
「は、初めまして・・・、幾田良といいます」
 こんな夜遅くまゆと一緒に来たなんてどう誤解されるか判らない。
 だが、成美の反応は意外であった。
「あなたが幾田・・・良くん?」
 どうやら、まゆが以前から俺のことを話していたらしかった。
 それから俺はこうなったいきさつを彼女に話した。
「まゆ、強くなりなさい。まさかあなたがこんな事で挫けるなんて思いしなかったわ」
「どんな時でも、いつも耐えてきたじゃないの。本当に母さんあなたには感謝しているのよ。
 それにここにいなくたっていつもテレビで見ているんだもの。
 娘の、日一日大きく、美しくなっていく姿を・・・」
「お母さん−−−−−」
 まゆがまた、泣いた。
 ちっ、俺もどうやら少しもらい泣きしちまったようだ。
「強くなるのよ、まゆ」
「そうだよ、まゆちゃん。俺がついているじゃないか。いつもどこかで応援させてもらうよ」
「ありがとう、幾田くん」
 少しばかり彼女にいつもの笑顔が戻ってきたみたいだった。
「それに今、君歌っているじゃないか。ステップ・STEPっ て」
「ステップ・STEP・・・」
「もっと大人に、そして高い所へと登っていかなきゃ」
「高いところへ−−−」


 いつもの午後、いつもの夕暮れ、いつもの下校時だった。
 そして俺はまた、いつものように悪友どもといつもの喫茶店 に寄った。
「でさ、こいつったら杉本まゆちゃんが俺のこと好きだと言っ たんだと」
「あははははっ−−−−」
 ヤツらは横でごちゃごちゃとまるで昨日と同じ様なことを言って笑っているけれど、俺はもう言い返す気などなかった。
 もう気になどしていなかった。
 バカ話が再燃しようとした時、そこにつけてあったテレビに まゆの姿が映った。
「うん!?」
「ありゃ!」
 今日のゲストは今や人気絶頂の杉本まゆちゃんです−−−−
「おい、杉本まゆだぜ!」
「おおっ」                                       
 ヤツらは話もそのまま、即テレビへと食い入った。
 そして、俺も−−−−−
 綺麗だった。昨日の事がまるで嘘の様だった。
 美しく光り、そしてとても輝いている。
 俺はほっとし、そっと微笑んだ。
 彼女は歌う。

♪そうよステップ・STEP  いつもあなた
 夢を追いつづけ
 行くのステップ・STEP  どこまでも
 愛という名の翼で−−−−−−
                            



 思い出深い、初めて印刷物になった作品です。
 それまでもいろいろと、モノを書くのは好きな方でしたが、学校の宿題半分みたいな作文や、詩みたいなものでしたからね。
 もちろんオリジナルの小説を書こうと、小学校の高学年くらいから他の作品はつくりかけていたのですが、欲張りなもので大長編を無謀にも企画し、勿論完結していませんでした。
 まぁ、短編ながらも、これが完結した初めての作品でもあるわけです。
 それにしても本当にこの作品が出来上がった時は感動モノでしたよぉ〜。
 それまでは全てルーズリーフなんかに『手書き』でしたから。。。。。。

 大学に入ってから『文芸部』なるものに入り、先輩に大変お世話になりながら、初めて自分の作品をワープロで打つ。
 カタカタカタ・・っとプリンターから音を立てて、自分の作品が『活字』になって出てくる。
 ここ数年でワープロは各家庭にまで急激に普及しましたが、この時はその普及する一歩手前でしたからね。
 まだ、画面が何と!『2行』しかない!、しかも『フロッピーディスクドライブもない』もので、記憶もさせれない!!という代物でしたからね。
 小説を書くのもさながら、ワープロを打つのも大変苦戦しました。

 とにかく、印字の方も今のに比べると悪かったけれども、それでも本屋に並ぶ小説と同じように『印刷物』になったのは、大変嬉しかったですよ。本当に♪

☆H元.11/1『NEUROTIC』第4号に掲載   


みやびやまちゃんの(^^)//と、いうわけ(再編集後記)
 グスン。。。
 この作品の主人公『杉本まゆ』のイメージは、歌手&声優だった『故・志賀真理子』さんでした。
 次作『ステップ STEP-SONG-』では、ラストでの歌と作曲をしました。
 その直後、事故で亡くなっちゃたんですよね。ショクでした(詳しくは、次作の『My Memories』参照。
 この間、まさかないよな?ってYahooで検索してて、見つけたHP。
 まだ忘れられない人たちがいたんだね。うれしかった。
 と、いうわけで、よかったらリンクのぞいてみて下さい。   1999.5/4    

←くりっく♪

→Pastel Dream『もくじ』に戻る


[PR]口が臭う人の共通点…:臭いが見える対策は?