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情熱!! Tigers


 ドンドン!ドンドンッ!
 けたたましく家の戸を叩く音がする。
 その音に、彼はようやくその疲労と倦怠感の暗闇の中から目覚めた。
<チッ!だれだ?こんな夜更けに!>
 ガチャッ!
 やっとのことで玄関に辿り着き重いドアを開けた。
 そこには何やらみすぼらしい、異様な雰囲気の連中が五〜六人いた。彼の目にはその時、そうとしかうつらなかった。
「うっ!」
 思わず、顔を逸らす。身なりもそうだが、鼻をつんと突く酒気も彼にとっては苦痛だった。
「何かね!君達は!」
 高くとまり、下目づかいで言う彼に、その中でも一番、癖の悪そうな中年の男が答えた。
「いやあ〜、こんな時間や。迷惑やと思とる。すんまへんなあ。けどな、どうしても会いたいやつがおるねん。
 まさか、て思たんやけど・・・。こんなでっかい不動産会社 の人やとは思うてもみんかったけど・・・」
 ぐだぐだと喋る男に、彼はよりによってこんな時に、なぜ自分が酔っぱらいの相手をしなくてはならぬのだと思った。
「さあ、帰りたまえ!ここは君達のような者が来る所じゃあない。さあ。私は多忙だ。帰りたまえ!」
 そう言うが彼はドアを閉めかかった。
 ガシッ!
 次の瞬間、閉めようとされるドアに男は自分の靴をはさんだ。
「むっ!何をするのだ。私は君達などには用はない」
「ふっ、ふははっ。わしらも別にあんたなんかに用はねえ。ただ団長に会いてえんだがよ」
「団長?」
「そう、団長。うちの、阪神の応援団、『虎友会(こゆうかい)』の団長や。
 亡くなりはったんやろ。おとつい新聞に載ってるの見て、びいっくりしたんや。ずっと、みんな探しとったんやで。
 御園−−−、修一郎・・・・。お前さんのおやっさんやろ」
「ちっ、親父め。何をやってたかと思えば。団長だって?知らぬうちに会社の金を使って何をしていたのかと思えば・・・
 君達だったのか。親父とくんでいたのは」
「ふっ、すぐに金、金か・・・
 よう嘆いとったわ、修さん。どうして家の息子はこうも変わっちまったんかってな。
 昔はよかったて、修さんよう言うとった。いつも言うその言葉を聞いてわしらほんと、悲しかったで。
 けど、応援しとる時は別やった。輝いとったよ、全てが−−」 
 その時、家の奥からその奥さんらしき人が声をあげた。
「あなた、何してるの。そんな酔っぱらいなんか早く追っ払ってしまいなさいよ」
「あ、ああ。
 とにかく、もう金のことはいい。済んでしまったことだ。
 だがこれ以上、もう御園家に近寄らんでくれたまえ。
 全く、くだらん親を持ったもんだ。死んだ後でも迷惑をかけやがる。
 さあ、これをやるからさっと帰ってくれ」
 彼はそう言い、何枚かの札を男の手に握らせた。
「ちっ、こんなものなんかいらねえ。こんな物をせびりに来たんやない。修さんの最期に会わせてくれんのか、くれへんのか、どっちや!」
 彼が男に渡した札はぶちつけられ、辺りに散らばっている。
 それをぶつぶつ言いながら、彼は拾いつつ言った。
「君達にこの家へ入ってもらう資格も権利もない。早々に立ち去れ。でないと警察を呼ぶぞ」
「へっ。これでも修さん、文句いろいろ言いながらもあんたを 大事にしとったよ。だが、今のおまえさんやないな。
 ずうーっと過去の、まだ夢と希望に満ち溢れていた頃のあんや」
 そして男は臼汚れたボストンバッグからきれいに折り畳んだ布切れを出した。
「これはよく修さんが持って応援してくれたうちの団旗や。
 どうしても、あわせてくれへんねやったら仕方あれへん。せめてこれだけでも、枕元に置いてやっといてくれへんか。
 この団旗はな、わしたちの命でもあり、修さんの命でもあっ たんや。さあ」
 強引にその布切れを渡され、彼はますます困惑の色を増していった。
「それじゃあ、えろうお邪魔さまでしたな。ほな帰らせてもらうわ」
 そう言い残すと、男達は颯爽と帰って行ってしまった。
 バンッ!
 怒りまかせに彼は少しの隙間の開いていたドアを力任せに思 い切り音を立てさせて閉めた。
「ほんと、迷惑ですわね。義父様が亡くなられてから今日で三日目。その間、変な人が何人来ましたことか」
「すまんな、疲れているのに。全く、金だけ持って行って、いらぬものをこの世に置き去りにして行きやがって。
 本当に何を考えていたのか。道楽親父め」
 彼は男から受け取った旗を、無造作に辺りにぽい投げ捨てると早々、一日の疲れをもう一度癒し直すためにベッドへと入った。
 そして、その旗の隅から飛び出たものに、彼は気付くよしもなかった。 


 翌日、あまりの仕事のはかどりなさに彼は少々苛立っていた。
「何いー!宮山町の土地の買収に失敗しただと!」
「はい、申し訳ありません」
「あそこは我が社の次世代を担う重要な土地だ。あれほど絶対に手に入れろと言っておいただろ」
「はあ。しかし−−−、」
「で、こちらは所有者にいくらで買うと提示したのだ」
「はあ、ざっと五億ほどで・・・」
「それで、その土地を買収した相手の会社は?」
「はっきりとしたことは分かりませんが、我が社のたった五十 分の一、一千万で譲り受けたとか・・・・・」
「なにいー。一千万!たった一千万であの土地を!
 おい、車をまわせ。現地へ行く」 
 いつもになく、激しい表情をする彼に、完全に狼狽したか、 その部下の行動はたどたどしい。 
「はっ、は・・、只今−−−−」
 バタムッ! 

 目的地への路地の中、彼は考えていた。
<何が不満なのだ。何がいけなかったのだ。五十倍だぞ。資金は十分だったはずだ。どうして−−−−−−−>
 彼の頭の中は不思議で一杯であった。
 やがてそんな彼を乗せた車は現地へ到着した。
 キーン! カキーン! − 鋭い金属音 − 
 バスッ! ドスッッ! − 鈍い衝撃音 − 
「うっ−−−−−!」
 彼は車を下りた途端、ある音を耳にし、何かを感じていた。
 言葉では言い表せることのできない何か−−、である。 
「こ、これは・・・?」
 自分がそこに夢見た一大事業計画の場。
それを奪っていった者。どのような者が、何のためにそれを 買ったか、彼は一応自分自身の目で確かめておきたかったのだ。
 しかし−−、そこにあったのはただトンボできれいに均された土地 −グランド− 。
 だだっ広いグランドが広がるだけだった。
 そしてそこで野球を練習する少年たちがいた。 
 彼は歩み寄り、その監督らしき者に思わず声を書けた。
「あ、あなたは・・・。あなた方がこの土地を−−−?」 
 監督らしき人の後ろ姿。それは癖のありそうな中年の男のそれであった。 
 男は振り向かず、そのまま言う。
「そうや、これはわしらの土地。みんなの、あの子供たちの、たいせつな、大切な夢狩り場や。
 御園・ジュニア・タイガースのな」
 彼は一瞬、眉間にしわをよせた。
<御園−−−−−!?>
「また会ったな。浩二−−−」
「あ、あなたは・・・!」   
それは紛れもなく昨晩、彼の家へ訪れた男であった。
 しかし彼は今、そんな男にただならぬつながりを感じていた。
 昨日はそんなことはなかったのだ。と言うより、暗闇の中で、激しい疲労と倦怠感の中で何も感じとれなくなっていたのだ。
 やがて、彼の頭の中に浮かんだ言葉がその口をついて出た。
「兄さん−−−?。御園・・・、浩一・・・
 ま、まさか・・・!こ、浩一兄さん−−−−−!?」
 男は口元に笑いを含めながら答えた。
「ようやく、気がついたようやな。
 そう、御園浩一。それがわしの名や。弟の名は浩二。
 そして親父の名は−−−、修一郎」
「兄さん・・・」 
「ははははっ。それにしてもえらい事業っぷりやな。よう儲けとる。偉いやっちゃ。
 わしにはお前のようなことは到底でけへん。
 あん時やあワルやった。真面目なお前と違って、わしはワルやった。
 中学卒業と同時に家を出て行って、はや数十年−−。
 お前との差は歴然と開いた。その見なりを見ればな−−」 
 シュボッ!
 浩一は荒っぽくタバコを一本、胸のポヰ ←@しかオし=A瑞フワルやったわしでも今、お前に誇れるものがある。
 よう考えてみ。じいーっくり、胸に手を当てて考えてみ」
 浩二は全く当たる節がないわけではなかった。
 だが、そう言う浩一に対し、どうしても素直に受け入れられぬものがあった。
「ははっ、何をいまさら。あなたに・・・、あなたなんかにいまさら弟呼ばわりされる筋合いなどない。
 あなたは兄さんなんかじゃあない。私には兄弟などおらぬ。
 いまさら何故私の前に現れるのだ。
 勝手に家を出、親父やお袋、私を悩ませたうえ、まだ懲りずにまた親父をたぶらかし、自分の道楽に連れ込むとはなんたる卑劣!」 
 浩一はようやく振り向き、言った。
「確かに。わしが過去にやった重大な過ち。それは認めなあかんやろし、否定する気もあらへん。
 ただ、誤解せんとって欲しいんや。親父とはたまたま、偶然巡り合っただけや。
 あれは、去年の秋の事やった−−−。


 雨の中の甲子園。まだあん時はわしもようぷらぷらしとった。
 ケンカしては職を変え、ケンカしては職を変えってな。
 丁度その日もケンカして仕事やめて、不貞腐れたまま、いつもと同じように阪神戦を見に行った。
 悲惨やった。ボロ負け、おまけに土砂降り。 
 ずぶ濡れになってようやくその冷たさから、仕事のこと、負け試合の怒りも冷めて帰ろうとした時やった。
 一人のおじんがじいーっとベンチに座ったまま泣いてたんや。思わず、いつもになくあの時、わしはそのおじんに声をかけた。
『おー、どないしたんや。そんなとこに何時までもおったら風邪ひくで。さあ何があったか知らんけど早よ、出よ出よ。
 そや、一緒に温まりにいこや。 
 いやあ、心配あらへん。金のことやったら大丈夫やさかい。
 な、早よ行こ行こ』
 わしら二人はそのまま屋台に行き、一緒に酒を飲んだ。
『なあ、なにさっきからずっとしょぼくれてんねん。さあぱーっといこ、ぱあーっと』
 とく、とくとく。
 杯に温かい透明な液体が注がれる。
 それをおじんは何も言わんままぐいっ、ぐいっと飲んだ。
 そしてわしの目の前に一枚の写真を出した。
 子供の写った写真やった。よっぽど肌身放さず持っとったんやろ。色褪せ、くしゃくしゃになっとった。
 その写真に見入った次の瞬間、わしは‘ハッ,となった。
 そこにいる少年。グローブ、バットをそれぞれ持った二人の少年−−−。
 紛れもなくわし浩一、お前浩二の幼き時、過去の姿がそこにあった。 
 そこで始めてこの昔の面影もなくなるくらい老いた、おじんが親父やったことを知った。
『これはなわしの大事な、大事な息子たちじゃー。 
 けど、もう今は二人ともおらん。
 こん時やー良かった。すべてが輝き夢に満ち溢れとった。
 じゃが、長男の方は中学卒業後、間もなく家を出て行ったきり。
 残る次男も、仕事、仕事。一日中、年中仕事、金、金・・・。金のためには人道も外しやがるようになっちまいやがった。
 鬼の御園ってな。やくざな不動産業よ。
 もう夢も、希望も・・・何もあらへん。  
 こんな事やったら妻が死んだ時に一緒に死ぬんやった』
<お袋が−−!>  
 今の今まで、何の手もつけず、いい加減な人生を送ってきたわしやったけど、その時何かが心の中ではじけた。
『なにアホな事言うてんねん。死んだらあかん。死んだら何もかもが終わりやんか。死んだらあかん。
 そや、おっさんも阪神好きなんか。』 
『好き?まあ一つのいい思い出やな。
 丁度二人とも野球に興味をもった時やった。見てみい、このグローブとバットを持って喜んでる姿を。
 一回一緒に本場のプロの野球見よなって言って始めて行った所、甲子園−−。阪神、タイガース・・・
 その最終戦。そや、丁度今日たいな天気の日やった』 
 自分自身、そんな昔のこと忘れとった。けど頭のどこかで微かに何かが残っとった。
 わしとっさにおじんの手を取り、叫んでた。  
『そや、応援しよ。二人で一緒に、応援しような、な。ええやろ、な』 
『ははははっ。お前さんのその強引な所、昔の長男とよう似とるわい。わっはっ、はっ、はっ、はっ』
『−−−−−−−』  
 何だかその時、わしはとても辛かった。
 思わず『わしがその浩一や!』て、言いそうになった。けど、出来へんかった。
 わしにはそんな名を名乗る資格なんかあらへんかった。
 親父には最期の最期まで言わんかった。
 それからやった。あくまでも親父ではないおじん、修さんとの一個人としての、男同士としての付き合いが始まった。
 全てが充実の毎日やった。わしはこれまでにもなく真面目に、一生懸命に働いた。甲子園にただ、行くためだけに。
 そして類は友を呼んだ。昨日わしと一緒にお前の家へ行きよった連中と知り合ったのもその時やった。
 阪神タイガース私設応援団『虎友会』の始まりや。
 修さんもその頃にはあの雨の日の面影なんか全くあらへんようになっとった。
 お前に昨日渡したあの応援団旗を力いっぱい振って元気そうに、楽しそうに応援しとった。
 けど、やがてシーズンも終わり応援も出来へんようになった時、虚しさがわしらを襲ってきたんや。 
 修さんもまた、元のしょぼくれた修さんに戻って行きそうった。不安やった。
 けどこの空き地で、少年たちが野球をやっとる姿がわしらの目に飛び込んで来よった時、ぱっとある
                                                                     

 まさにこれを書くときは自分でも大変情熱が入っていました。
 今回収録している短編集の中で、自分でもとても気に入っている作品の一つです。
 この作品は、ドラマとか観ていたらそのほとんどが『東京』を中心に展開しているので、何故ドラマは『東京』ばかりなんだ?自分が住む大好きな『大阪』を、『関西』を舞台にするドラマが何故ないんだろう? 
 そう疑問に思いながら、それならば自分でやってやる!、という勢いでつくったものです。
 そしてそんな物語を書くにあたり、いったい何をネタにしたら自分も読者も納得できるものが書けるんだろうか、と考えたとき、自然と真っ先に『阪神タイガース』がでてきたんです。
 しかし、この企画段階まではよかったんですが、それからが大変!!
 それは阪神が、『勝つ』話にするのか、それとも『負ける』『ボロボロ』な話にするのか。
 阪神ファンの一人として、本当に悩みました。
 実際、阪神はこの時本当にボロボロでしたからね。
 だから主人公も、『巨人の星』じゃあないけれども、その阪神バージョンで選手にしようかな、なんて思っていたのですけれど。。。
 でも、あまりにも現実が離れ過ぎていて、夢物語過ぎて書けませんでした(笑)。
 で結局、一番自分に近い原点の原点の『応援側』の者を主人公に、そして現実の実際の阪神タイガースの状態をベースに書きました。
 それと、登場人物たちの会話に大阪弁を使ったのもあらたな試みでした。
 けど、当然ですよね。舞台も舞台だし。
 私も実際そこに住み、日常使っている言葉ですが、本当に温かい、情熱いっぱいの言葉だと思います。
 そしてこんな言葉をこうして主人公達が使う作品を書けたのは本当によかったです。
 最近はJリーグ人気、とサッカーがブームになってきていますけれども、野球も昔からそれぞれの地域に根づいた一つの文化です。
 それが地域に及ぼす影響は、ものすごく大きなものです。
 皆さんはどこの野球チームのファンですか?
 もし、『阪神タイガース』のファンでしたら一緒に甲子園に応援しに行きましょうよ。(勝手も負けても、応援は楽しい♪)
 それにしても、自分の部屋に貼ってある、吉田監督が宙に舞う『祝!優勝 阪神タイガース1985.10/16』の巨大ポスター。
 は、いつになったら新しいのに帰れるんでしょうか、ねぇ?

☆H3.4/1『新入生歓迎号』に掲載   


みやびやまちゃんの(^^)//と、いうわけ(再編集後記)
 再編集しながら、いやぁ〜泣けてきました。
 H3.夏。父親が亡くなったんですよね。その秋、阪神ファンだった母親を連れて、気分晴らしにと甲子園最終戦に行きました。
 けど、この作品と同じく(雨じゃなかったけど)ボロ負けでした。。。
 何か、思い入れありますよねぇ〜。

 さて、しんみりした話はさておき、今年はどうなるのやら??
 野村阪神!GWまで元気に何と!2位!!  がんばれぇ〜!!  1999.5/5

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