YAMATO −Since2199 (序章:人類滅亡の日)
「ヤマトよ、ヤマト・・・・。何処にいるんだ。ヤマトよ・・・・」
荒廃し、その生命を失いつつある地下都市に一人の男がさまよい歩いている。
「早く帰ってこい、ヤマト。お前の命はこの・・・私が、あ、あ
うっ・・・・・」
そう言いながら、彼はそのまま前につんのめりドサッと音を
立てて崩れた。
その周りに人はいたが、誰も見向きはしなかった。
このような光景はこの頃、見慣れたものであったのだからで
あろうか。
誰も・・・見向きはしない。
「また一人・・・・」
誰かがどこかでボソッとそうつぶやいた。
その倒れた男はあまりにも汚く、あまりにもみすぼらしかっ
た。
−放射能による諸病状−
それによる病死が頻繁に起こっていたのだ。
全身真っ黒で臼汚れた白髪をボサボサにのばし、ボロボロに
なった服を着たその姿が余計に周りの人々にそう思わせた。
「あんな終わり方だけは絶対したくねえ!」
今度は誰かがそう叫んだ。
「そうだ。ヤマト、ヤマトはどこに!」
「何時になったらかえってきやがるんだ!」
「そうよ、ヤマト!結局、帰ってこないじゃないの」
「バカにしやがってー」
「もう八月よ!」
倒れた男の姿は人々の目に入らなかったが、その最期の一言が周りの者の耳にあらゆる波紋を投げ掛けた。
「あれからもう既に十ヵ月・・・。帰還予定をはや一ヵ月も越えておる」
イスカンダルからのメッセージ。予測人類滅亡日まであと三百六十五日、一年・・・・・
そのうちの十ヵ月が早や過ぎ、残り二ヵ月。 未だそのヤマトからの連絡はなし・・・・」
「もうだめだ、人類は、おしまいだぁー!」
「うあああぁーー!」
悲痛な叫び声を上げる者が出てきたかと思うと、それに反応
して暴れ狂い出す者もいた。
「ヤマト地球に帰還せず、か・・・」
「俺たちゃここで野垂れ死に、っと」
「やっぱり駄目だったか。あの強大な敵、ガミラスの妨害の前には・・・・」
「いや、案外そのままとんずらしちまったのかもな。あの船ならどこへでも行ける。
何せ超科学のエンジン、波動エンジンを積んでいるんだから」
「波動・・・エンジン?」
「お前、知らないのか?超高速ワープ航法ーーー
つまり、ヤマトは光りを越えて航行出来るすっげいエンジンを積んでいるのさ。
それをうまく使えば・・・」
「第二の地球を探し出すのも不可能ではない、と・・・」
「ほ、ほうー。やっとバカなお前の頭でも理解できたか。所詮、現実はこんなものよ・・・
甘い夢は早めに捨てておいた方がいい」
「やめろおーっ!」
そんなやりとりを聞き、顔を真っ赤にさせながらその中に入り込んできた青年がいた。
「やめろっ!ヤマトは必ず帰ってくる。地球に再び生命を与えるコスモクリーナーDを持って」
気分を害された彼らはキッと睨みながらその顔を上げた。
「んだとー!この野郎ーー、ん?
何だ、また加藤か・・・・。いい加減にしろよ!」
「ヤマトは帰ってくる、帰ってくるんだ、必ずーー」
「何をー、甘ちゃんだぜ。てめーはよ。
そういや、お前のアニキはヤマト乗組員だったけな。
こんな可愛い弟をほったらかしにして、今頃どこで何をしているのかね」
「三郎兄はそんな人じゃない!
例え、ヤマトがどうなろうが一人でも帰ってくる人だ。三郎兄さんって人はーー」
「ほほーう、あれだけ戦争嫌いのお前が肉親というだけで肩を持つのか?ヤマトは戦艦、宇宙戦艦なのだ。
防衛軍が今まで何をしてきた!
軍人は『平和の為に、と』戯れ言をいい、ドンパチやって莫大な報酬を貰い続けてきた偽善者に過ぎない。
そしてお前のアニキはそんな防衛軍の、ヤマトの戦闘機乗りなのだ」
「確かに・・・、今でも俺は軍人としてのアニキは認めていない。いくら防衛の為だとは言え・・・。
だが今度は訳が違う」
「どう違うのさ、結局一緒だろ?」
「いや、違う。俺が信じるのは、重要なのは。
ヤマトが戦いの為だけに発進したのではなく、地球人類を救う為にその命をかけていると言うことだ」
「馬鹿な!十四万八千光年の旅だぞ。それも片道でだ。
往復、二十六万九千光年。こんな前人未到な旅が出来ると正気で思っているのか?
それに噂によれば、もともとヤマトは『地球脱出用外宇宙航
行船』だったそうじゃないか。
それを考えればさっき俺が言った事もまんざら嘘でなかろう。
第一どうだ、身近に見ただけでも判る。
軍のお偉いさん達は設備の整った厚い壁の部屋でのうのうと暮らしている。
それに引き換え、本来守られるべき俺達がこうやって苦労している。
食う物もなく、水さえもない。
そして恐ろしい放射能・・・・
揚げ句の果てにあれだ」
彼はそう言いあごをしゃくり、先程からばったりと倒れたままの男を指した。
それに対し、加藤は先程にも増し反論する。
「だからこそ、ヤマトは帰ってくるんだ。帰らなければならないんだ」
「そう・・・、そうだ・・・、だからこそ・・・、ヤマトは帰ってくる・・・、帰って来ねばならんのだ・・・」
「あ、あんた・・・」
その声の主はばったりと倒れ、死んだかと思われたあの男から発せられたものであった。
驚く一同。
「い、生きていたのか・・・・」
駆け寄る加藤。
「大丈夫ですか?私が手当てします。さあ」
そう言うと加藤は男を抱きかかえた。
「ヤマトは・・・、ヤマトは・・・・・」
「必ず帰って来ます。待ちましょう、一緒に」
そんなやりとりをする加藤らを呆れ顔で見る彼。
「ふっつ・・・、もう何も言わねえ。勝手にするがいい。
その病人とくたばるまで夢物語でも語り続けるがいい。
はは、ははははーーー。
はっはっはっ!!」
「ふっ、・・・・」
「バカめーー」
「クレイジー」
背中に突き刺さる嘲笑をよそに、加藤は家路へと足を向けた。
その一言を残して−
「軍人、軍人って結局あんたらも何もしないじゃないか。
この人を目の前にしてー。自分さえよければいい。
利己主義者の固まりだよ、あんたらは。
一番近い者が見てやらなくてどうするんだ。
そんなお前らなんか軍人よりも劣る。
もう会うこともなかろう。
ここで野垂れ死ぬのはあんたらの方だ」
「−−−−−−−−−−−!!」
「どうも・・・・、すまんかったな・・・・」
「いえ、そんな。当たり前のことですから」
加藤達は暗く臼汚れた部屋へと帰ってきた。
彼は男をベットに寝かせ、明かりを求めローソクに火を付けた。
「ん?明るいな。いいんだよ、わざわざ無理しなくても」
「いいんですよ、さっきあれだけあいつらに言っておいて結局、僕に出来るのと言えばこんな事くらいですから」
この時代、明かりは何よりも最上のもてなしであった。
希望の光さえない、暗闇の地下都市に生きる人間にとって。
「いくら貴重がられているこの明かりも独りでいるときは何も用がないですからね。
今日は独りじゃない。あなたがいるから」
「・・・・・そう、か・・・・」
次に何か戸棚の所でごそごそしていたかと思うと加藤は右手にボトルを左手にグラスをと持ち出し、テーブルの上に置いた。
「何だねそれは・・・・」
「これですか?へへっ、ワインか何かだったらいいんですけどね。
そうもいきませんで。水ですよ、水」
「水・・・・・」
コポ、コポコポコポ−−−−
いい音を立てて、それは透明なグラスへと注がれた。
そこへ、ほのかなローソクの輝きが加わり、ある一つの暖かい空間をつくり出した。
「どうです?一杯」
そう言いグラスを差し出す。
「これこそ・・・・・、何と貴重なものを・・・・
ありがとう。あり難く頂戴するよ」
男は目を細め、ゆっくりと口の中で味わいながら少しずつ喉へとその液体を通していった。
「んー」
あまりにものうまさに声も出せない。
「さあてっと、俺も」
加藤もグラスに満たした透明な液体を口にする。
「うめー、今日はまた格別だあー。どうですもう一杯」
「いや。ありがとうよ、とてもうまかった。こんなにうまい水を飲んだのは実に何年ぶりだろう」
「ふふっ、お口に召しまして光栄です」
と彼は悪ふざけ気味に言う。
それに応じて男も笑った。
「ははっ・・・・。それにしても見ず知らずの者にこんなに」
「いいじゃないですか。旅は道ずれ世は情けってね。
こうしてあなたと会えたのも何かの縁。待ちましょう。
一緒に、ヤマトの帰りを」
「ヤマト・・・・・か・・・」
「ああー、そういえばお互いにまだ自己紹介をしていませんでしたね。
俺の名は加藤四郎。普通の民間人。さっきみんなが言ってた三郎ってのが俺のアニキの名前さ。
三郎兄はそのヤマトに乗っている。戦闘班ブラックタイガー隊長としてね。
あなたは?」
そう聞かれて男は一瞬、加藤から目を逸らした。
「い、いやあ、べつにいいんですよ。言いたくなければ・・・・
誰にでもありますものね。秘密って」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ただね、あなたを見た時から何か、こう感じるものがありまして。
ただの、普通の人に思えなくて。
もちろん悪い意味でじゃないですよ、いい意味でね」
そう彼が言うのを聞くと男はようやく重い体を起こし、口を開こうとした。
「ああ、無理をしなくてもー」
慌てて体を支えてやる。
「相手に・・・・先に名乗らせておいて、自分が名乗らぬのは・・・・・失礼だからな。
い、言わせて・・・・もらうよ」
男は支える加藤の腕の中で喋る。
「どうやら・・・・君のくれた・・・・水のおかげで、元気が沸いて・・・・来たようだ。
私の、私の名前は・・・・海神武人だ」
「わだつみ、たけと・・・・。へえ〜」
加藤はこの時代にまだ、こんな名前があったのか、と驚いている。
「ははっ、・・・・すごい名前だろ。私の家はね、代々造船業をね・・・・、営んできたんだ」
「それでそんな名前が」
「ああ、かもな」
「でも海のない今の地球じゃ船はね〜。だからヤマトを?
地球が再び海の青さを取り戻すのを望んで・・・・」
「それも、あるかも、しれないがな・・・
私が、本当に望んでいるのは・・・そんな事ではない。
家が・・・・造船業をやっていたと言っても、海に浮かぶ船を造っていたのは・・・・もう随分、昔のことだ」
本当にもらった水のおかげだろうか、彼は今や加藤の腕を離れ、自分自身の力でベッドに座り精一杯、喋ろうとしていた。
その頬は赤い。
「私の爺さんの頃からだった。我が海神家は長年、親しんできた海上船の造船業をやめ、新しい道へとその足を向けた。
新しい道、そう。宇宙船建造に着手したのだよ」
「宇宙船ー」
「全てはそこから、海神家が宇宙船建造に着手した時から始まった。始まってしまったのだよ。
ははっ・・・はははっ、祖先に続きこの私までもが同じ過ちを犯そうとは・・・」
「過ち?一体何をーー」
「ヤマトだよ」
「ヤマト?」
四郎はさっぱり海神の言っていることが判らなかった。
「ふふっ、私がヤマトの帰りを待つ理由。それは・・・」
「それはーー!!」
「ヤマトの・・・・命を・・・・奪う、こと・・・だ」
「奪う?ヤマトの、命を!」
「ヤマトを・・・蘇らせてしまった者の一人として。再び、ヤツに安らぎを与えるまで!
私は死なん!死ねんのだ!死んでたまるかーっ!
ヤマト、ヤマトよ、何処にいるんだ。なぜ早く帰って来ん!
ヤマト、ヤマト、ヤマトーーーーーー!!
ぐっ、あ、がああああーーーーーー!!」
「−−−−−−−−−−−−−!?」
興奮し、発狂寸前となった海神。
急に腹を押さえ、腰を折り曲げそのままベッドから転げ落ちる。
「海神さん!」
そう言い、慌てて海神を抱える加藤。
「しっかりしてください。海神さん!」
「ぐううっ・・・・・・・」
唸る海神。
その口から赤い血が滴り落ちて来る。
「海神さん!大丈夫ですか!だれか人を・・・」
四郎は救援を求め、外へ行こうとした。
−ガツッ−
その足を掴む者が一人。
「何をするんです」
「行かないで、行かないでくれ、加藤君。
私の話を、私の・・・、話を・・・・」
「海神さんっ!」
「このままどこへも行かず、聞いてくれっ!
私の・・・・私の話の全てをーーー」
「しかし・・・」
「今、いま話しておかねば・・・・
自分の体の事くらい、自分がよく知っている。
いまさら、いまさらどうあがこうが、結果はーーーー。加藤君!」
振り切ろうとしていた加藤の足から力が抜けた。
海神の必死の頼みのせいもあったが、何よりもその様な助けてくれる者がいないのにも気付いたからである。
「判りました。お聞きしましょう、最期まで・・・・」
「ありがとう。加藤・・・・君・・・・」
そう言う海神の頬に熱いものが一筋、横切った。