
YAMATO −Since2199 (第1章:秘密地球防衛会議)
二十一世紀の始め以来、宇宙侵略を着々と進めてきた謎の宇宙艦隊。
それは遂に太陽系へとその魔の手をのばし、地球に対し遊星爆弾による無差別攻撃を開始した。
西暦二一九二年から始まったその攻撃により、あっと言う間に海は蒸発しつくし、地上の全生命がその命を失った。
人類はわずかにその生存圏を地下へと求め、細々と生き延びているのであったが、刻一刻とその最期の時がせまりつつあった。
−西暦二一九七年−
謎の艦隊の地球侵攻が始まってから、はや五年の歳月が流れ
ていた。
そのころ地球防衛対策本部では幾度目かの秘密防衛会議が開
かれようとしていた。
もちろん言うまでもなく、それは最近さらに攻撃の手が強まってきたあの謎の宇宙艦隊への対策と人類の未来についての会議であった。
次々と各国の首脳陣、俗に知識人と呼ばれている人々がそこ
へと集結してくる。
遊星爆弾による放射能汚染、そして謎の艦隊と戦っては散り去っていく地球防衛艦隊・・・・。
数々の悲報が耳に飛び込んでくるたび、彼らの顔には苦悩と焦りの色が濃く現れてくるのであった。
その様な中、この会議はいつもより熱気を帯びてスタートし
た。
ドンッー!
男はその意見を聞くなり机を叩きいきり立った。
「何いー、地球脱出計画だと!」
「そうです。もう既にお判りのとおり、我々には一刻の猶予も残されてはいません。
現在の遊星爆弾による放射能汚染の進行状況から考えますとあと数年。
そう、計算によりますとあと五年足らずで人類を含む地球上の全生命が死滅してしまうでしょう。
そしてあいにく我々の現代科学は今のところそれを防ぐ能力は持ち合わせておりませんし・・・
だから、私はこの地球脱出計画を推すのです。皆さんの中にも同じ意見を持っておられる方がたくさんおられると思います。
これは今、一番考えなければならないいや、考えるべき問題なのです」
その言葉にほとんどの者が同意のうなずきをする。
「そんな事くらい判っておる。まあ君の言う通り、誰でも一度は考えることだろう。
だが、そうだと言ってあっさりと結論を出し、それを前に出す君の心理が判らんね、私には。
君も科学者の一人だ。もっと他に何か考えなかったのかね」
「ふん、分かり切ったようなことを・・・・。
船造り屋に何が判るってんだ。私たちも考えたさ。何度も何度もね」
「何度も何度も、ね〜」
ガシャーン!
そう言うが彼は目の前にあった水の入ったグラスを持つや否や床にぶちつけた。
辺りに静けさが訪れる。
そんな中で彼は大声を上げて言った。
「それがこの結論だと、笑わせるじゃねーか。第一、その脱出し生きのびる者をどうやって選ぶと言うのだ。
まさか現在生存 している人類全てを脱出させることも出来んしな。
それに、あの謎の敵の包囲網もどうやって破ると言うのだ。脱出どころか大気圏さえ出れんでしょう。
もし、例え敵の攻撃をうまくかわし、脱出できたとしてもそん
なにたやすく生存可能な星が見つかるとは思えない。
それとも何か、あなたはそのような星を発見したとでも??」
「むむっ、」
相手は全く反論する余地がない。
「地球脱出論は、言うは易し行うは難しです。
軽率な考えでその言葉を口に出さんで欲しい」
一瞬ほとんどの者が地球脱出論に軽々しくも賛成しかけたが、海神の指摘により会場にピリリとした緊張感がもどってきた。
今しなければならない事、いま出来る事。
それをもう一度、人々は考え始めていた。
「やりますな。あのジャパニーズ。ねえ、ミスターオキタ」
「まあな」
「彼の名は?」
「海神武人。日本のただの宇宙船造船業者の一人だよ」
「ワダツミ、タケト・・・、宇宙船造船業者?日本の宇宙局と関係ある業者かい」
「いや、だから言っただろ。ただのってね」
「WHY?」
生体工学者、ウイリアム・デイノスは感嘆していた。
成り上がりの偉いさんより、たかがただの一業者と言っても凄い奴がいるんだと。
彼はそんな海神武人とやり合ってみたくなった。
「防衛対策会議長」
ウイリアムは立った。
「何か」
「私にも一つ提案があります。発言してよろしいか」
「どうぞ」
「私も先程の彼と同様、数々の難題に悩んでおりました。そこで我々がずっと研究してきた事なのですが。
我々の誇る生体工学技術と優れたコンピューター制御、そして宇宙航行技術の三つが合い重なり成し得るものでして。
その予測される効果をここで話しておきます。
まず第一、宇宙脱出者の選択。
もちろん地球全人類を非難させるのは無理な話だ。
と、なるとある限られた者しか生きる権利が与えられない。しかし、平等性から考えてそれはできない。
だから、まず最良と思われる精子と卵子を選びます。
もちろんこの場合もその精子卵子提供者の選択に問題があるかと思われますが先の問題よりもはるかに無難かと思われます。
第二に、敵の目を盗み脱出させること。
これは精子と卵子だけに、小型の宇宙航行船で済むので安易かと思われます。
ただしこの場合、その宇宙船本体に強力な防衛装置を付けることが出来ないのが欠点です。
しかし既に開発済みの超合金で防衛装置はないものの、かなりの攻撃に耐えることの出来る外壁を備えることになります。
第三に、生存可能な星探し。
こんな言い方は何ですが、例えば昆虫類や魚類等は外敵が多
いだけに多くの子を残します。
それと同じように我々も多くのこの希望を乗せた小宇宙船を三百六十度、全天球へ放ちます。
人類生存可能と思われる星が見つかるまでそれらはコールドスリープのまま旅を続けます。
しかる後、第二の地球発見次第 船は新天地へと降り、眠らされていた芽を目覚めさせ新しい人類の発生を促します。
誕生した新生命はコンピューター管理の下、人としての教育を受け育ちそこで人類の新しい文明をスタートさせるのです」
「おおーつ」
一気に緻密な計画を論じたウイリアムへ皆から感激の眼差しが送られる。
「そしてそれは実際可能な話なのかね、ウイリアム君」
「はい、ほぼ。現在の所それに関する生体工学技術が八十パーセント、コンピューター技術が七十五パーセント。
そして宇宙船開発 が五十七パーセント進んでおります」
「ふーむ、かなり現実的な話みたいだな。しかし、生体工学と
コンピュータの二つに比べ宇宙船開発が大分遅れているみたい
だが」
「その通りです。二つは何とか我々の技術だけでここまで来た訳なのですがもう一つがどうも・・・・・
そこでここにいる皆さんに協力してほしいのです。どうです、どなたか?」
そう言いつつ彼はその視線を海神へとやった。
「どうです、あなたは?宇宙船造船業関係の方だそうですが。これなら協力していただけますかね」
「−−−−−−−−−−−」
「どうでしょう?」
ウイリアムはしてやったと思った。
自分の薦める論の現実性、安全性、倫理性、どれを取っても
不足はないと思った。
海神の唇が動きかける。
その口から出る次の言葉。
彼は思った。うんと言わざるを得ないと。
しかし−−−−−、
「答えは・・・・・・、NOだ」
「な、何だって!」
「聞こえなかったか。NOだ!!」
瞬時、会場にざわめきが起る。
またしても彼は皆に波瀾の種を蒔いた。
計画はほぼ完璧なものと思われる。素晴らしい考えだ。是非、進めていって欲しい。
だが私は協力できん」
そこまで言っておきながら否定することにウイリアムは全く彼という者を理解できなくなっていた。
それどころか怒りを含む苛立ちさえ、生まれていた。
「解らない。どうしてだ。何が不満なのだ。教えてくれ、この私に何か過ちが??」
彼の焦りをよそに海神は言う。
「別に一般的に見ておかしいと思わんよ、君の考えはね。
しかし、それが結果的に正しいとしても、人はそんなに素直になれるものだろうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「違うのさ・・・・・・・。心の底にあるものが、君とは」
「それじゃあ、一体何なんです?あなたの目指すものは。ここまで言うのなら何かあるはずだ。あなた自身の考えが。
あなたの地球に対する想い、是非お聞かせ願いたい」
その二人のやりとりを聞く周りの者は、そうだと言わんばかりうなずく。
「それでは、私めの意見を」
再び会場に静けさが戻る。
「私が唱えるのは・・・、唱えたいのは『徹底交戦』であります」
ざわざわざわ。。。。
あれだけ次々に反論していた男だ。もっと何か地球人類に絶対的な明かりを見せる秘策を用意しているものと思われていた。
しかし、最期に出たその言葉は『徹底抗戦』だったのである。
彼の一言に期待を寄せていた人々は愕然とした。
「はははは、何を言い出すと思えば−−−。あれだけ大口を叩いておきながら『徹底抗戦』とは、愚かな事を。
一体それに、そのどこに。 どれだけ地球人類全生命を賭ける価値があると言うのかね。それこそ馬鹿な話だ」
ここぞとばかりに先刻、海神に足蹴にされた男が嘲り笑った。
しかしそんな彼の嘲笑に構わず、海神は常に平静であり、次
の発言の期を伺っていた。
会場のどよめきを制するべくその口が開く。
「お静かにーーーーーーー!
確かに『徹底抗戦』と言うのは先の地球防衛会議で否決された意見である。しかし皆さん、もう一度考えていただきたい。
本当にこれがただの愚なる意見かを」
必死に意見を述べる彼をよそに未だ半数以上の者が素知らぬふりをしている。
「何故『徹底抗戦』を今更ながら取り上げるのか。それにはそれなりの理由がある。
ただ闇雲にすてばちの特攻をやろうという訳ではない」
「じゃあ君は一体何の為にそれを実践したいと思うのかね」
とうとう地球防衛対策会議長までもが彼に対し言を発した。
「地球全人類の命の・・・、魂の為に・・・」
「はあ?君は何を言っとるのだね。『徹底抗戦』ともなればか
なりの被害、いやそれどころか謎の敵によっての完全なる地球全人類の死滅さえあり得る。それを考えれば・・・」
「いや、結果は同じでしょう。少数の選ばれた人間が脱出するにしろ、ウイルソン君の薦める意見にしろ、今ここにいる我々を含めたほとんどの人間が死滅するんです。
そうです!今、こ こにいる、ここに、この地球に生きている人々なくして何が人類の未来でしょうか。皆さんそう思いませんか」
その懸命な彼にようやく重い腰を持ち上げる者が出てきだした。
「ふむ、なるほど。そうかもしれんな。一時は何と無謀なことかと思っていたが。
これはもう一度考えてみる必要がありますかな?会議長」
「ああ、そうだとも。よく考えてみると地球脱出論はともかく、
ウイルソン君の意見にも問題点がありますな。
もしこの地球に残った者が死滅したとして、その宇宙のどこかで芽生えた新しい人類。
いくら現代の粋を集めたバイオテクノロジー、コンピューター制御の下と言えども所詮は人のつくったもの。
いくら完璧のつもりでも、その者たちに我々の意思がどれだけ受け継がれるのか」
「それだけじゃない。
今回の謎の敵の出現ではっきりしたことだがこの広大な宇宙、我々地球人類以外にも生命体が存在している事が判った。
本当に寸分の狂いもなく、人類の種を乗せた宇宙船がきちんとふさわしい新天地に着くのならいいが。
無限に広がる宇宙を前に果たしてそれが通用するかどうか・・・・」
同意する者がようやく出始めてきた。
それらの意見の意するところは彼の考えの根底が示す所のそれであったのだ。勢いに乗り、彼は話す。
「そうなんです。私の言いたい事のもう一つはそこなんです。第一は先に述べた誰のための人類の未来であるかという事です。
そしてもうひとつ。これを我々地球人レベルだけで判断していい事なのかということです。
選ばれた者の脱出なりウイルソン君の論を実行したとして、いかがでしょうか。
今、意見が出かけていたところですが。ちょっと、それらが行き着く場を考えてください。
無限に広がるこの宇宙にはあまりにも我々の知らないことが多すぎる。
適した場所で、適した人類の発生が促されれば何も言うことはありません。
しかし、三百六十度全天球に希望を放ち、その内の一つでも今の人類の意思を受け継げたとしても、後の残りのものの事が問題です。
それらは何らかの事故を起こしているという事です。
その事故によって起こりうる結果。
異常生命体の発生、他の生命体へ驚異−−−−。
それだけではないでしょう。とにかく想像も着かない事が起こりうるのです。
結局、私の言いたい事。地球だけの一点を見るな。宇宙全体を見よ、と言う事。
誰も皆、子孫が今この地球に無差別攻撃を加えている謎の敵の様な者になって欲しいと思う者はいないはずです」
そこまで言われて、人々は果たして何が正しく、何が間違いであるのか判らなくなってしまっていたのである。
「しかし、海神君の意見も判らん事もないですが結局、子孫を一人も残さず地球人類全滅となるといささか・・・」
「ふうむ。だが地球脱出と言っても・・・」
地球防衛対策会議長も考えあぐねていた。
「どうやら、振出に戻ってしまったか。議決を取るまでもなく、両論甲乙付けがたいものだ。ただ・・・、沖田君」
「はい」
「もし『徹底抗戦』をするとして、その意見の出た国、日本の宇宙艦隊司令はどう思われるか?
敵との戦いはまず宇宙艦隊戦からその火蓋が切り開かれることになろう。
して、その戦況はいかがなものか。いくら頑張っても最期は地球人類滅亡を免れない戦いなのだが・・・。
が、しかしその戦う者を何の希望もない所へ出撃させる訳にはいかん。何か策はあるかね」
地球防衛隊・日本宇宙艦隊司令・沖田十三。
元々は国連総合大学で宇宙物理学を教えてきた学者である。
その学者である彼が何故このような立場でここにいるのか。
普通ならそのまま宇宙物理学者としてこの地球防衛対策会議に出席していただろう。
しかし、彼も海神と同じく祖先の血を引きずって生きる一人であったのだ。
祖先の血。それぞれ海神は造船技師の血、沖田は戦士の血を−−−
「はっきり申し上げておきましょう。現在のところ、これという策はあいにく持ちあせておりません。
また、日本の地球防衛隊はおろか、世界各国の地球防衛隊を集結させても敵を撃破するのは困難かと思われます。
しかし、戦う以上私は負ける気はない。この身、この体すべてなくなろうと地球人として最後の最期まで戦うつもりだ。
ただ、私の考えとしては・・・。
難しい。余りにも難しすぎる。
私には未だ二つの道を選択する決心はついてはいない。
どちらも正しければ、どちらも正しくない。
いま私が提案できるただ一つのことは現在の『国際連合』よりももっと世界各国の結びつきと協力を強めた『地球連邦政府』
の樹立です。
結論はまずそれからだ。
それと一つ付け加えておきます。
先程、放射能汚染における人類滅亡は五年足らずと言う話が出ていましたが・・・・。
私の方の観測結果によりますと約三年が限度と思われます」
「うーむ」
ただでさえ厳しい今の地球人類の存亡。
その上、世界にも名のある宇宙物理学者、沖田十三の観測結果による放射能汚染の凄まじさの報告。
先の者の予測の五年をはるかに下回る三年という人類に残された短い時間。
誰もが絶望したくなるような時の短さである。人類はその残された時間をどうやって生きていけばよいのか。
いや、もうその考え踏み止まっている時はない。人類に課せられた残りの時−−−−。
それはただ、前進のみのために与えられたものであった。
「そしてもうひとつ」
再び沖田が言を放つ。
「もし、我々がその世界の全てを結集した組織『地球連邦政府』
を樹立できた上で、謎の敵と『徹底抗戦』をする意があれば、日本はある計画を実行する用意がある」
そう言うと彼は対角線上の各国防衛隊司令長官席を見やった。
そこには勿論、日本の地球防衛隊司令長官もいた。
藤堂平九郎。その人である。
人々も沖田の目の動きに合わせるかのようにそれへ見やった。
「藤堂君。どうやら君がその沖田君の言う計画を説明できるようだが」
「はい。今まで日本独自で進めてきた計画なのですが・・・」
多分こうなるであろうことを、藤堂は予測していたものの、いざその計画を公表するとなると、司令長官の彼とはいえ緊張をときほぐす術を持ってはいなかった。
額に汗がほとばしる。
「どうだろう。是非、その計画をここで我々に話してくれぬか」
地球防衛対策会議長も必死であった。
いくら討論しても止まぬ会議の終止符を、ただひたすら求めていたのだ。
例え、こたえの出ようのないものだと判っていても。
「その計画の名は−−」
「その名は?」
全ての者が固唾を飲んで、藤堂の一言一句に耳を傾ける。
「『YAMATO計画』、と申します」