
YAMATO −Since2199 (第2章:YAMATO計画)
「『YAMATO計画』!」
「そう、『YAMATO計画』だ。YAMATO−−−−−−−。その名に皆さんは聞き覚えないでしょうか」
YAMATO。それは誰もが一度は聞いたことのある名であった。次第に首を動かし頷く者がでてきた。
「そうYAMATO。いまから約三世紀も前の船の名がそれだ。
旧日本海軍戦艦、大和」
確かにその名には聞き覚えがあった。だが、人々はそうであるが故に首を傾げずにはいられなかった。
何故ここで、このような話の中にYAMATOの名が出てくるのか。
大和は巨大戦艦ではあったが、それはあくまでも海の上を行く船である。彼らにはどうしても理解出来なかった。
「はははっ。見るようではどうやら皆さん、解りかねているようですな。
私も始め、この計画を聞かされた時、何を冗談を、と思っていたのだが・・・」
「ん?君、藤堂君。あなたは今、『聞かされた』といったね」
「あ、はい」
「君が考えた計画ではないのか」
「はあ・・・」
「それでは一体誰が?」
この『YAMATO計画』は、確かに藤堂も深く関わっていたのだが、その発案者ではなかった。
先程、沖田が彼を見やったのは、この計画を公表していいものかどうかという事の同意を藤堂に求める行動に過ぎなかったのだ。
「それは、その提案者とは。
海神・・・、海神武人君です」
「何っ!」
先程からなりをひそめていた海神に不気味さを感じている者もいない訳ではなかったが、まさか彼がここでまたもや出てこようなど思ってもみなかった。
ただ一人、予測していたであろう者。
ウイリアム・・・、だけであったようだ。
彼には海神がただの非反論だけで終わるとはおもえなかったのだ。
予測が当たったと思いつつ、隣の沖田の顔を見る。
その顔には微かだが、確かに海神を見る頼もしさがあった。
<海神武人−。ただの宇宙船造船業者・・・、か・・・>
議長とともに、再び皆の視線が海神に集まる。
「海神君。これはどういう計画なのか。期待してよいもなのか」
慌てて問う議長。
そんな彼をよそに、彼は落ち着き語り始めた。
「期待していいものか、期待すべきものなのかは皆さんの心にお任せ致します。
沖田君の言ったように、これからいろんな意味で各種物資の不足が予想されますので、この計画を実行するに当たりまず、『地球連邦政府』の早急な樹立をお願いするものです。それは、たとえこの計画に乗ろうが乗るまいが、どの計画においても必要なことですから。
それはともかく、それでは早速本題に入らせていただきます」
誰もが耳を澄ませ、海神の話を聞き入ろうとする。
「YAMATOとは、藤堂司令長官の仰るとおり、旧日本海軍戦艦大和のことを指します。
なぜここで、戦艦大和が出てくるのか。
第二次世界大戦もその終わりが近づこうとした西暦一九四五年四月。
一機の護衛機もなく、片道分の燃料しか持たぬ戦艦大和はたった十隻の護衛艦を従え、海上特攻とも言われる絶望的な出撃を決行した。
目指すは沖縄。その島民を救うため。
対する米艦隊。のべ三百隻。それに加え、約千機の爆撃機。
いくら世界最大、最強と言われる大和もその前に成す術はなく・・・・・
四月七日午後三時。
必死の抗戦にも関わらず、大和は二度の大爆発を起こし、その巨体を海の中に静めた・・・」
ドンッー!
「その大和がどうしたというのだ。我々は歴史講義を聞きに来たのではない。何が言いたいのか」
日本に、大和に、あまり好感を持たぬ者だろうか。神が喋り始めた途端、いきなり机を叩き野次を飛ばす者が出た。
だが、それでも彼は平静を保ったままであった。
かえって会議長の方が慌てて横からの抗議を静めようとする。
「お静かに。意見のある者は発言者の発言終了後にてお願いし
ます。
海神君。続けて」
「はい。その大和が沈んだ場所。日本の九州南西坊ケ岬、二百六十度、九十浬の海底。
そして西暦二二九七年の今日、未だ大和はその海底で眠り続けています。
もっとも、海底と言っても、今は地上の一部と化していますが。
ともかく、そこで眠り続ける大和。鉄クズ同然の赤錆びた大和。
しかしその体内では、新たな生を受けるべく活気に満ち溢れた血がうごめいております」
「それはどういうことだ。わからんぞ、まだ私にはさっぱり。
まさかその鉄クズ同然の、三世紀も前の戦艦が蘇るとでも言
うのか?」
その問いに対し、海神はきっぱりと言った。
「その通りです。大和は甦ります。巨大宇宙戦艦として!」
「何いー!」
全く予想もしない展開であった。
遺跡とも言える鉄クズの塊が空を、宇宙を飛ぶ。
誰がそんなことを考えるだろうか。
会場は驚きの叫び声にあふれた。
「バカな!!」
「全長二六三メートル。最大幅三八・九メートル。三連装衝撃砲主砲三機、同副砲二機。艦首ミサイル。煙突ミサイル。パルスレーザー砲多数装備。各種レーダー完備。それに宇宙艦載機格納庫を完備した超巨大宇宙戦艦として大和は蘇る」
「おおーっ」
今度は驚きの叫びが、感心の唸りとなった。
「ところで海神君。今、なに故にその『徹底抗戦』の策にYAMATOの再生が必要なのだ。他の船では駄目なのか」
あまりにもの、その『YAMATO計画』のスケールの大きさに議長は、只々感服し、知らぬ間に話に引きずり込まれていくのであった。
「もちろん、ただ闇雲にこの『YAMATO計画』を押し薦めている訳ではありません。
やはり、それにはそれなりの理由があります」
「その理由とはDD?」
「まず、現在の宇宙艦隊戦において、何故こうもムザムザと地球防衛隊はやられるのか。
それは宇宙戦艦の火力、防御力におき、謎の敵艦隊に比べ我々のそれは足元にも及ばぬからです。
それではどうすればよいのか。
答えは簡単です。造ればいいんです。それ相応の船を−−。
しかし、現実は余りにも過酷である。
それだけの船を、今現在の地球科学の粋を集めて造ろうとすれば、時間さえあれば、そんな宇宙艦隊を造れるかもしれない。
だが、我々にはその様な時間はない。
では今、何が出来るか。敵艦隊を打ち破れる艦とはどのような艦なのか。
それを完成前に敵に見つかることなく造れる場所は?」
そう言いつつ彼は、熱を帯びた喉を潤わせるべくグラスに入った、透明な液体を、グイッっと飲み干した。
先刻、それは海神のあまりにもの興奮によって床にぶち付けられ、なくなったはずだった。
が、誰であろうか。気の利いた者 が入れ直してくれていた。
そんな一杯の水で一息ついた海神は再び話を続ける。
「戦艦大和の眠る場所。それは先程言いましたとおり、日本の九州南西坊ケ岬、二百六十度、九十浬の海底であります。
既にご承知の通り、敵遊星爆弾は世界各地に無差別的に投下されている。
だがその中にも、敵がまんべんなく降り注がせていると思っている中にも、節穴が全くないわけではなかった。
敵の遊星爆弾の射出場所、時間間隔。地球の公転、自転、その他の惑星、衛生との磁力関係。
それらのありとあらゆる、爆弾落下可能性を秘めた全ての要素をくぐり抜けて存在する場。
例え敵艦が地球へ探索しに来ても、見つからぬ場。
計画実行まで、民間人を含む関係部外者に知られ、混乱に陥られることなく事を運べる場」
「−−−−−−−−−−−」
「それが日本の九州南西坊ケ岬、二百六十度、九十浬の海底であり、大和であったのだ」
「おおーっ!」
「遊星爆弾の降り注がぬ安全な作業現場。しかも、そこにある鉄屑同然の旧日本海軍、戦艦大和の残骸。
これこそ恰好の宇宙船建造ドッグ」
「宇宙船建造ドッグ?」
「そうだ。今、大和は海が干上がったこともあってその全貌を大地にさらしている。
それを表面から見て誰が重要物と思うか。地球人はもとより、
ましてや異星人が。
つまり、外部の旧戦艦大和のカモフラージュにより、その内部で完成するまで地球人類皆にも、異星人にもこの計画を知られず、新しい戦艦ヤマトが容易に造ることが出来るのです」
ウイリアムの論もそうであったが、この『YAMATO計画』
も二重、三重とアイデアを駆使したほぼ完璧なものであった。
先にも増してこの『YAMATO計画』を聞かされてから、
『徹底抗戦』論に賛成する者が出てきた。
しかし、そういう者がいれば、必ず批判する者も出てくる。
この場合も例外ではなかった。
「宇宙戦艦YAMATOだと!何が大和魂だ、特攻だ!
日本はまた、破滅への道へ進もうと言うのか。
今度は地球人類、いや地球全生命を巻き込んで」
「そうだ。第二次世界大戦。日本が戦争に負けたあの時と全く一緒ではないか。
あの時は広島、長崎。つぎは地球そのものを放射能のもとにだめにする気なのか」
「ああ、今からでも遅くはない。あの謎の敵に降伏を・・・」
一度火の着いた論争は止まることを知らず、次々に周辺の者に影響を与える。
始めは、この『YAMATO計画』に同意しつつあった者も徐々に不安を募らせていくのであった。
「あ・・・、あの・・・・」
「−−−−−−−?」
そんな混乱状態の中、へっぴり腰で席を立ち、わなわなと震える手をやっとのことで挙げ、議長に発言許可を求めようとする者がいた。
「何か。日本総理」
荒れていた会議であったが、その原因となった国の総理が発言しようとすることに一時皆、静まりそれへ耳を傾ようとする。
時を見計らって議長は彼に発言権を与えた。
「よろしい。竹中君、どうぞ」
「え、ええー。皆さんには大変混乱を与えてしまった訳ですが・・・。
この『YAMATO計画』の発案者は確かに海神君であり、同原案も今し方彼が申した通りでございます。
だからと言って、決してそれが日本政府の取る方針であるとは限りません」
「ど、どういう事だ。それは?」
海神の発言から察して、彼の言う『YAMATO計画』はほぼその通り、日本政府の下で動かされているかのように思われていた。
だが、実際は日本の首脳陣の中でも賛否両論があり、かなりごたついていることが、ここにきてはっきりとなった。
多くの者にとって、竹中の発言は衝撃的、かつ不安そのものになったのであった。
「総理!いまさら−−−何を!」
今まで落ち着きを通してきた海神であったが、彼にとってもこの発言は爆弾的発言となったのだ。
「確かに現在、日本において『YAMATO計画』は動いている。
しかし、海神君の言う『徹底抗戦論』も意見としては出ているものの、必ずしも決定したわけではない。
非常時という事で、取りあえず『YAMATO建造』を先に動
かさせただけで。。。。
その使用目的の結論は日本政府としてはまだ出してはおりません」
竹中総理は世界各国の非難を逸らそうと必死であった。
しかし、かえってそれは裏目に出た。
「どういうことだ!!
この一大事を日本政府はその様ないい加減な態度で進めてきたのか」
「い、いや....み、皆さん。決して、そういう訳では...」
「じゃあ、どういうつもりで進めてきたんだ。えーっ!」
「きっちりと説明してもらおうじゃないか」
数々の非難が次々と竹中に浴びせられる。
彼はその非難に耐えながら又、びくびくしながら話した。
「先程も申しました通り、我々は決してこの日本の一大政策である『YAMATO計画』をいい加減な気持ちで進めて行って
いる訳ではありません。ただ現在、日本においてこの計画に対し二つの意見が存在、
対立しており、それがこのような事態を引き起こしているのです。
丁度、この地球防衛対策会議をそっくりそのまま日本へ移したような感じでしょうか。
『YAMATO計画』の最終目的。
一つは海神君の言う『徹底抗戦用外宇宙船建造計画』であり、そしてもう一つは我々の言う『地球脱出用外宇宙航行船建造計画』です。
現場で海神君達が宇宙戦艦を建造することに熱中しているのと同様、我々も『地球脱出』の為の準備を密かに備えております。
これはそれが実行されるまで、内外秘密にしていおこうと思っていた事なのですが...。
私の言う、『YAMATO計画』、『地球脱出用外宇宙航行船建造計画』は、人類が放射能汚染で全滅する前に、選ばれた若者や動物を乗せて、地球を脱出するのが目的であります」
「−−−−−−−−−−−!!」
先に一度大激論がかわされた論であるだけに、皆はまたそれが掘り起こされて、急にざわざわとし始めていた。
竹中は他の者に水を差されまいと続けざまに言う。
「『地球脱出』と言いましてもあくまで平等の上に立ったものであり、決して自国民のかわいさの為だけのものではありません。
いずれはその脱出要員を世界各国から集めるつもりでした。
だからその為にも我々も、地球連邦政府の早期樹立を望むものであります。
そしてより多くの国々と手を結びこのYAMATO以外の建造にも取り組んでいきたいと思います。
結局、望むは地球人類の未来と平和です。それこそが本来の目的のはずです。
今回日本では相反する二つの意見があり、YAMATOは宇宙戦艦として建造されます。
しかし、考えてみてください。
先に日本が提案し、実行されている『地球防衛隊』。
あくまでも軍ではなく、未知なる異種文明に対しても専守防衛を主とすることを目的としたものをつくったその真意が、我々の平和への思いが皆さんにはお判りになられるでしょうか。日本が目指すのは正にこれこそ地球の、いや宇宙全体の平和です。決してその点で私の言う『YAMATO計画』は日本の過ちを再び繰り返すなどもっての他、過去の大和の悲劇、第二次世界大戦の過ちの罪のこれこそ償いとして、ここに報告するものであります」
海神ほど肝の座った人物ではなかったが、その巧妙な口に一時、人々は何となく納得させられてしまった。
ここで最も気に入らぬのは海神であった。
このままではそれこそ自分が先に提案したものにもかかわらず『YAMATO計画』は竹中の思うまま全世界的に『地球脱出用外宇宙航行船建造計画』と認識されてしまう恐れがあった。
どう言われようが結局、彼が目指すものは『徹底抗戦用外宇宙航行船建造計画』なのである。
負けてはならじと竹中の発言が終わるや否や、間髪入れず今一度、自分の論を展開する。
「いえ、その『地球脱出用外宇宙航行船建造計画』こそ最も過ちを犯す危険な計画です。それは先から申し上げている通りです。
その様に決してうまく行くはずがありません。皆さん、もう一度お考え下さい。何が真のものであるか!!。
もう地球人類の運命がはっきりとしている以上、悩むことはないではないですか。
皆さんやウイルソン君、竹中総理のおっやることも解ります。
しかし、現実とはあまりにも厳しく、無情なものなのです。
はっきり言って、私は非常に辛い。
日本人として、あの大和を再び戦場へ向かわせるのは...」
初めてであった。
海神は遂に本音の一辺を見せのである。
その彼の心にまた揺らぎ始める者もいた。
「それに、予測はしていたことだが、今会議で過去の大和批判が出たのも実に辛いことであった。
確かに、過去のYAMATO。戦艦大和の運命は正に悲劇的であり、それへの過程における旧日本軍の行為の過ちに対しては、いくら償おうとしても償い切れぬものがあると思っている。
一見すれば、まるでその『YAMATO計画』は、過去の大和の海上特攻の悲劇の繰り返しに思えるだろう。
しかし本当に、それにも関わらずこの道を選んだ決心をどうかご理解頂きたい。
一度過ちを犯し、その身で大和や、放射能による広島、長崎
の悲劇という代償を自ら経験した民族が敢えて選んだこの道を」
しばらくの間、両論の意見の真意を必死で皆は考えていた。
だが、議論がここまで来てしまってはもう決着のつけようがなかった。
その何とも終始の着かない苛立ちからであろうか、最初はただ、隣にいる者と意見を交わしているだけであったが、それが席を近くにする者へと広がり、意見も議論へと変わり、揚げ句
の果てには喧嘩となり、会議場全体へと広がっていった。
もう、こうなっては事は次第に広がる一方で、止まることを知らなかった。
とうとうこの秘密地球防衛対策会議は結論を出すまでに及ばず、会議閉会の合図も聞かぬまま閉会となったのである。
余りの過激なやりとりによって、負傷者もかなり出た。
秘密会議のこともあって、公にはこの会議は公表されなかった。
が、その帰国して各方針を取り演説をするその各国首脳陣たちを見た一般人はどう思っただろう。
知らぬ間に彼らの体のあちこちに傷が、外見だけでなく心にも大きな傷が残った。
人類滅亡の危機を迎え、地球人類はいかにして生きるのか?
いかにして、共に生きて行くことができるか....
人類滅亡、その日が来るまでに。
お互いに手と手を取り合って。
それは沖田と海神も例外ではなかった。